吉田良子『ともしび』★★★★☆

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ユーロスペース1。
2004年、ユーロスペース製作。
エロス番長シーリーズの一編。
吉田良子初監督作品。
河井青葉主演。
遠藤雅、蒼井そら、佐々木ユメカ、諏訪太郎、崔哲浩共演。

美学校出身者で、初めて地に足着いた演出が出来ている作品であった。

 

図書館に勤める八島裕子は、普段から同僚と親しく交わることがない。
仕事が終わると彼女は、
親しくなった不動産屋のおっさんからちょろまかした合鍵で、
あるマンションの女性住人たちの部屋を荒らしていた。
話の構成が上手くないので、
前半は彼女がなぜそのような行為に出ているのかがわからないのだが、
どうやらそれは、
そのマンションに住む一人の青年に思いを寄せていたからであった。
彼を独占するために、女性の住人を怖がらせ追い出すのが生き甲斐だったのだ。

 

一方その彼も、電車の広告張りという地味でルーティンな仕事を長年続けて、
彼女同様、職場の同僚とも親しく交わることもなく、
無目的に生きている孤独な人間であった。

 

彼女は彼が出社する時間を知らせる目覚し時計を常に携帯していたり、
彼の吸いかけのタバコを拾ったり、
一緒に食事をするかのように二人分の食事を用意してご飯を食べたり、
洗濯された彼のTシャツの匂いを嗅いだり、
ストーカー紛いのことを平然とするのに、
そして、周りの女性の部屋には大胆に入り、荒らしまくるのに、
彼の部屋には、決して入らない。
彼が風に飛ばされた彼女の洗濯物をわざわざ届けてくれたのに、居留守を使う。
出会いのチャンスが向うから来たのに、掴もうとしない。

 

彼女はバーチャルな恋愛しか出来ないのだ。
好きだけど、その男には話しかけることすら出来ない。
その男の抱いた女を抱きしめ、
彼のぬくもりを確認しようとする大胆な行動は出来ても。

 

青年は、可愛いお隣さんの女の子と共に、彼女の前から消えていく。
取り残された彼女は、初めて無人の彼の部屋に入り、
バーチャルな恋愛を続ける。

 

このような徹底した孤独を、20代の女性が描けたことに驚いた。
どちらかというと男性オタク的な人種に多く見られる人物を
見事に描いていたと思う。
社会学的な男女差はあるにしても、
都会で生きる人間の本質的な部分は男女関係ないのだろう。

 

この映画に出てくる人間は、みなルーティンな仕事しかしておらず、
それは主人公のスタンプ押しや、本の整理であったり、
青年の広告の仕分け作業や、貼り付け作業であったりする。
青年が密かに心を寄せる売店の売り子の女の子もそうだろう。
それら、単純作業の反復が、まるで主人公のストーキング行為をなぞるように、
それぞれの場で、繰り返されていく。

 

そして、互いにバーチャルな妄想の発火点でしかない他者が交差していく。
主人公に惚れている中学生しかり、売店の売り子をみつめる青年しかり。
そして、青年に惚れる主人公の八島裕子しかり。

 

その点が、同じエロ路線でもピンク映画と決定的に違う所であろう。
だいたい1時間にまとめられ、濃縮されたカルピスのように
濃密な人間関係が繰り広げられるピンク映画とは異なり、
ここではゆっくりとした、薄い人間関係がだらだらと続いていく。
カルピスウォーターですね。

 

構成が上手くないことや、締まりの悪いショットなど、
もっと短く、簡潔に出来た映画かもしれないが、
この時間の緩さこそ、この映画の美点なのかもしれない。

 

最後に、主演のケリー・チャン似の河井青葉の美しさと、
過剰さを排した遠藤雅の演技力、
そして演技をさせずに、蒼井そらの可愛いさだけを抽出した
吉田良子の演出力を、脚本以上に評価したい。