クリンと・イーストウッド『ミスティック・リバー』★★★★★
新宿ピカデリー3にて。
クリント・イーストウッド監督作品。
あまりに露骨な現在のアメリカの寓話であることに唖然。
もちろん本作はイーストウッドの作家性が散りばめられた作品でもある。
しかし、それ以上に現在のアメリカの寓話を指摘することの方が、
もっと容易いだろう。
かつてアメリカは覇権国としてイラクを軍事的に支援した。
そして911のテロが起こった。
自ら肥え太らせたサダム・フセインを今度は悪しき独裁者として断罪した。
つまりイラクへの無差別な攻撃である。
しかも劣化ウラン弾を使用するという国際法規を無視したやり方で。
その結果は911テロの犠牲者をはるかに上回る民間人の死と、
絶え間ない自爆テロを生み出した。
来る大統領選に向けたプロパガンダは
そうした暴力の応酬の中で着々と進められている。
かつてショーン・ペンは仲間のレイに裏切られ、
復讐としてレイを殺す。
そして匿名でレイの息子に送金を続ける。
しかし今度はその息子によって、
ショーン・ペンは娘を殺される。
彼は再び復讐を遂行しようとするのだが、
無実のティム・ロビンスを殺してしまう。
この暴力の反復の後、
すべてが何事もなかったかのように進行するラストのパレード。
これを現在のアメリカの寓話と言わずして何と言うのだろうか?
近年のイーストウッドの歩みを見ると、
古くはジョン・フォードが、
サミュエル・フラーが体現してきたアメリカを、
「許されざる者」として、
矛盾したその立場をより鮮明にさせながら、
自身の身体によって延命させてきた。
イーストウッド自身が、アメリカがアメリカであるための最後の砦であった。
『目撃』の大泥棒、
『スペースカウボーイ』の宇宙飛行士、
『トゥルー・クライム』の新聞記者、
『ブラッド・ワーク』の刑事、
いつもアウトローで制度の外にいる年老いたイーストウッドが、
その老いというハンデをもろともせず、
アメリカの機能不全をギリギリのところで救う。
本作にはそのイーストウッドがいない。
ショーン・ペンもケビン・ベーコンも、
言わんやティム・ロビンスもイーストウッドにはなれない。
もはやアメリカの機能不全を救う人間は誰一人いないのだ。